紙ヒコーキ

 スマホをテーブルに置き

 素足で

 どしゃ降りのベランダへ出る

 せっかく作った前髪も

 顔に張り付いて視界を塞ぐ

 柵から地表を見下ろすと

 雨に打たれる白い紙の山

 それは雨を含んで膨らみ

 うずくまって泣く私の形となった

 彼に投げた幾千の紙ヒコーキは

 この雨に遮られ たとえ雨が止んでも

 今度は風が邪魔をして

 もう絶対に届かない

アイス

 理由も聞かずに

 甘いもので済まそうとするから

 喜ぶふりだけして

 あの人が帰ったあとに

 安っぽいアイスをシンクに放り投げて 

 溶けるのをじっと見る

 私の好きな人は

 台風が過ぎた後のような

 予定調和がいつまでも続くものだと

 信じきっている
 
 

かげぼうし

 放課後の校庭であなたは一人立ってる

 右手には宛名のないメモ書き

 わたしは二階の窓辺から手を伸ばし

 延びた影越しにあなたの頬をそうっと撫でた

 怪訝そうにこっちを見上げたから

 咄嗟にわたしは口を押さえてうずくまり

 初恋のおわりを噛み締めた

あにばなれ

 「あれ?」
  さっき弟と電話してて アイツひと言も
 「お兄ちゃん」
 って 言わなかったぞ
 これは 夫婦がパパ、ママ呼びをして
 名前で呼びあわなくなる現象の反対か?
 ん? アイツ何で呼び捨てだったんだ?