水色のばあさん

また水色のばあさんが現れた 市役所のロビーには 昼間から 用もないのに高齢者が溜まっている 一見すると市民病院の待合室だ 「どうされました?」 分かってんだ 町内会の詩吟サークルの揉め事だろ 「私はいいんですけどね」 そう語尾につけたがるこの人は …

まあまあ

商店街の少し奥まった薄暗い一画から 明かりと人の声とうまそうな匂いが 漏れてくる 料理屋か飲み屋か 皆目見当もつかない 仕事の帰り道 ほんの数秒目にするだけ そこから色々想像をかきたて楽しんだ 次第に想像だけでは飽きたらなくなり 今日 意を決して店…

ネコだと思った

「ネコだと思った」 カナダの山奥で少女が子ネコを拾った 家に連れて帰ると 数年で大型犬より大きくなった 実はそのネコはカナダオオヤマネコで 少女とその家族は喰い殺される 隣で寝ている君を見る度 この話を思い出す

あくま

バッテリーはとうに寿命を迎え 常に点滴に繋がれた老人のようだ そのくすんだ傷だらけの身体が どんなに熱く膨張しようと その心臓をタップしながら 「俺?Mかなぁ。」 にやけた顔でUberを手配する

イチゴ

渡された花束は 女の香水の匂いがした 事実の重さで ゆっくりと私の意識は後ろに倒れていく 味のないイチゴを食べた時のような 吐くに吐けない でも飲み込めない このまま私の意識も イチゴのように潰れてしまうだろう

かに

玄関を開けると おめかしした妻が待っていて 「今日は外食したい」 と笑顔で言う 断る理由もないので 鞄を放り投げ 二人並んで歩きだす 「蟹がいいな」 「また?好きだね」 いま思えば妻の目は笑っていなかった

字は色づく

窓ガラスを叩く雨粒が 影になり机の紙に流れていく ふいに顔を近づけ 顔でもなく声でもなく指でもなく 字を褒めた あなたに褒められた字で 離婚届にサインした

お月様

夜道で月を見上げるように ぼんやりと付けたドラマ 貧乏でどん底の主人公に 共感できないは 彼女の服やバッグがブランド物だから ではなくて お月様だから

紙ヒコーキ

スマホをテーブルに置き 素足で どしゃ降りのベランダへ出る せっかく作った前髪も 顔に張り付いて視界を塞ぐ 柵から地表を見下ろすと 雨に打たれる白い紙の山 それは雨を含んで膨らみ うずくまって泣く私の形となった 彼に投げた幾千の紙ヒコーキは この雨…

アイス

理由も聞かずに 甘いもので済まそうとするから 喜ぶふりだけして あの人が帰ったあとに 安っぽいアイスをシンクに放り投げて 溶けるのをじっと見る 私の好きな人は 台風が過ぎた後のような 予定調和がいつまでも続くものだと 信じきっている

かげぼうし

放課後の校庭であなたは一人立ってる 右手には宛名のないメモ書き わたしは二階の窓辺から手を伸ばし 延びた影越しにあなたの頬をそうっと撫でた 怪訝そうにこっちを見上げたから 咄嗟にわたしは口を押さえてうずくまり 初恋のおわりを噛み締めた

浮かぶ

昼下がりのスーパーで 品物を吟味する人達 その頭の中にプカプカと 浮かぶ幸せの意味を どれだけの人が知るだろうか

あたらしい

トイレから戻ると 妻の側で次男が泣いていた 「何かほしいものでもあるのか」 「新しいお父さんがほしい」 「こら そんな事 子供が言うもんじゃ ありません」

あにばなれ

「あれ?」 さっき弟と電話してて アイツひと言も 「お兄ちゃん」 って 言わなかったぞ これは 夫婦がパパ、ママ呼びをして 名前で呼びあわなくなる現象の反対か? ん? アイツ何で呼び捨てだったんだ?

黄金じゃない日々

「あ~ 先輩いま」 「え 何?」 「さっきGW の予定聞いた時」 「出る予定ないって言ったよ」 「で 連休中 天気悪いって言ったら」 「え 何?」 「ほらね って顔しましたよね」

仙人掌

同僚の机の 小さなサボテン 「話しかけたら トゲがなくなるらしい」 昼休み 日当たりのいい席で霧吹きを手に せっせと話しかけている だが トゲは鋭くなるばかり 同僚は今日も テキーラ臭い

見える景色

「はあ」 意味の分からないため息 後ずさりしながら がらんどうを見渡す ふるさとを捨てる 「はあ」 震えている そのまま 「いってきます」 ただいまは永遠に来ない 何かに祈るように 気持ちにも鍵をかける

その時の気持ち

捨て猫の入った箱の前で しゃがみこむ小学生 意を決して家へと走る 望み薄でも 思いは残る

泣き顔も

「もう バカだね」 転んで ソフトクリームを落として 泣いてるのに 何故か笑ってた 今なら分かる あの人のキモチが

からっぽ

フロントガラスの雨粒は 赤や黄色 ときどきみどり 一粒一粒の世界に気づけない 助手席がからっぽの帰り道

誰にでもいつかはやってくる

「ピンポーン」 誰だ 朝っぱらから 呼び鈴は更にしつこく鳴り続ける 「ピンポーン ピンポーン ピンポーン」 残業を終えて あと数時間で出勤なのだ 「ピンポーン ピンポーン ピンポーン」 だんだん頭が痛くなってきた 身体ひきずり 目を血走らせ 玄関ドアを乱…

何か聞いたことある

「アタシって~ もう26じゃないですか~」 聞いてないって 「若い子見ると 自分ヤバいなって~」 だから 聞いてないって 「最近どんどんおばさんになってきててぇ~」 聞いたことある 12年前のアタシだ

他人にはわからない誇り

「あのさ 俺のあだ名」 同窓会の帰り 乗り合ったタクシーで 「ザキヤマってやっぱ嫌だった?」 「ううん」 やまさきの抱えるモヤモヤに 家に帰って気づいた

おなじ

「家事手伝いです」 そう自己紹介すると 笑いに包まれる この国の男女同権も まだまだだと 思ったしだいです

見えないもの

「いいよね 気楽で」 お酒を口実に 友人を揶揄した 会社を辞め 独立した彼女は その傷を隠すように 微笑んだ

話題

使い回されたニュースと女子アナの衣装 話題になりゃ何だっていいのかよ 節操なさを一人管を巻き 明日の話題作りのために チャンネルの間をせっせとさ迷う

はだか

ユニットバスで一人 浴槽の湯をかき回す なかなかいい塩梅にならないことに 悪態をつきながら 湯の中で手を変にヒラヒラさせて そんな自分を 俯瞰することは なかなかにむずかしい

勝手に通りすぎていく

今年こそ花見に行こう 行こうって 結局行けずじまいで 花はそこにあるのに 勝手に通りすぎていく そんな人生

捨てなくていいもの

ビー玉 スーパーボール 校庭の小石 いつの間にか手元にあって ほんの少し大切にして いつの間にか無くなった 勝手に無くなったんじゃなく 自分が捨てた その時の気持ちも一緒に

嘘つきなともだち

「自分も今日 誕生日なんです」 「ねえ ケーキ選ぶの手伝ってくれない」 子供がショーケースからケーキを選ぶ 「じゃあ それ三つ」 沢山の誕生日を持つ 嘘つきなともだちの話