まあまあ

 商店街の少し奥まった薄暗い一画から

 明かりと人の声とうまそうな匂いが

 漏れてくる

 料理屋か飲み屋か 皆目見当もつかない

 仕事の帰り道 ほんの数秒目にするだけ

 そこから色々想像をかきたて楽しんだ

 次第に想像だけでは飽きたらなくなり

 今日 意を決して店の前まで来たけれど

 店の中は真っ暗

 帰ろうと振り返ると

 「にいさん」

 フードを目深に被った男に呼び止められた

 尋常じゃない背の高さだ

 呆気にとられる私の傍らを通りすぎると

 おもむろに店の鍵を開けはじめた

 「何食べたいの」

 男は振り返り欠けた前歯をむき出しにして  
 笑った

 返事の代わりに店に入った

 正直 料理はまあまあだったが

 人を掴むのがうまい人だ

 翌日 急いで店に行くと

 店主の姿がない

 休みかと思い確認をすると

 小柄で無愛想なオヤジが奥から出てきた

 訳は話さず料理をかっこみ急ぎ飛び出た

 振り向くと絶え間ない賑わいと人の声

 あのまあまあが良かったのだ 私は。