おでんの思い出

車止めの金具に尻をもたせながら
ふと思い出したこと。

私はしたたか酔っていた。大学生の頃だ。
飲みの帰り道、高校の友達がコンビニに寄った。
その頃は金が無く、コンビニは割高で滅多に使わなかった。
外で待っていると友達は箸と容器を二つ持っていいて、ひとつを私に渡した。
その中身は大根と牛スジの串がひとつずつ。
「ありがとう」と言う間もなく友達は熱々の汁をすすり始めた。
「飲んだ後にはこれがいいんだ」
友達の顔は湯気に隠れて見えない。
私もつられて汁をすすった。
真冬のバス停のベンチで二人で食べた。道路には車一台通ってはいない明け方。ほんの数分だっただろうが、私の心には永遠にその時の思い出が残っている。

酒を飲む度に車止めの金具に尻をもたせながら、私はその時のおでんの残りの汁をすする。